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👤舌痛症の正体

ケーコ歯科には舌の症状についての相談メールが多く寄せられてきます。
中でもその文面に多いのは「舌痛症」というキーワード。
メールの内容は、通院先で舌痛症と診断されたが、明確な説明も治療方針もないまま時間だけが過ぎてゆくという切実な内容ばかり…。
そこで今回は舌痛症の正体について、口腔外科の開業医という立場から私見を書いてゆこうと思います。


舌痛症


総合病院の口腔外科時代から多く担当させていただいておりましたが、フワッとした説明はできてもハッキリした説明はいまだにできません。
たぶん実際にお悩みの方もそんな印象なんじゃないでしょうか?

 (歯医者で舌痛症って言われてネットみたけど、結局、なんなの?
 (舌痛症の原因、遠回しに加齢とストレスってこと?
 (これってホントに病名なの?

そんな風に思われた方もみえることでしょう。
では、そもそも医学的にどんな定義なのでしょう?


 

学会の説明

Google で検索して最初に出てくるのは次のような説明。
舌痛症の定義は、国際頭痛分類第3版に従うと
口の中のヒリヒリ、カーッとした痛みまたはピリピリした不快な異常感覚が、1日に2時間以上で3カ月以上にわたって連日繰り返すもので、臨床的に明らかな原因疾患を認めない病態

ここで出てくる国際頭痛分類というものは、日本頭痛学会によるもの。
歯医者さんも所属可能な学会ではあるのですが、基本的にはお医者さんの学会になりますので、慢性の痛みの1つとして扱われていることになります。1日2時間以上3ヶ月という数字が興味深いですね。
ただ近年では口腔内灼熱症候群(通称:BMS)として扱われており、舌痛症の説明とは異なるかも知れません。

では歯科業界はどう定義しているのか…?
まずは日本歯科医師会の説明を見てみると…

舌痛症(ぜっつうしょう)とは、はっきりとした原因が分からないまま、舌に痛みやしびれを感じる病気です。
「ヒリヒリ」「ピリピリ」とした灼熱感(やけどのような痛み)や「ジンジン」としびれて熱いものや塩辛いものが食べれないなど様々です。舌の先や縁に現れることが多く、痛みが移動することもあります。

とあります。後半の文面は臨床例ですから、薄いグレーの文字としました。
次に口腔外科学会の説明。総合病院や大学の口腔外科に紹介された方も多いのではないでしょうか?

舌に炎症や潰瘍などの明らかな病変がなく、その色調や機能も正常ですが、患者が舌に慢性的なひりひり感、ぴりぴり感、灼熱感(しゃくねつかん)などの痛みを訴える疾患です。
貧血に伴う舌炎による舌痛、糖尿病、薬物などによる口腔乾燥により二次的に生じる舌痛、歯列不正、咬耗に伴う歯および補綴物鋭縁、舌癖による舌痛、カンジダ症による舌痛などと区別する必要があります。中高年の女性に多く、食事中や何かに熱中している時には痛みを感じないことが多いのが特徴で、歯科心身症の代表的な疾患です。治療としては、さまざまな方法が行われていますが、現在、最も有望な治療法は抗うつ薬を中心とした薬物療法です。

これまた臨床例が併記されてますが、新たに歯科心身症という言葉がでてきていますね。簡単に言えば、精神的要因によるお口の症状です。さらに治療法は抗うつ薬とまで書いてあります。
では逆に心身医学会はどう説明しているのでしょう?

器質的な変化や検査値の異常(貧血など)は認められないにもかかわらず、舌痛のみを訴える病態とされている。
日常臨床においてしばしば遭遇する疾患であるが、多岐にわたる原因があり、また、患者さんの精神状態やストレスとも関連するためその診断、治療が困難な場合もある疾患である。

…とまぁ、どの組織も核心となる説明はボンヤリしてて、臨床像や疫学を併記することで全体の文章を長くしている印象。
これが余計にわかりにくさを招いている気がします。


 

舌痛症の定義


一方で、これらの主要学会の説明をまとめてみると、以下のような共通点も見えてきます。

① 舌に異常はない
② 舌に痛みがある
③ 他の病気じゃない

それでもやっぱりフワッとしてる印象で、まるでなぞなぞのヒントのよう。
普通、医学的な診断は条件が満たされることで絞られてゆくが多いのですが、舌痛症はその逆で条件を満たさないことで診断される訳です。
各学会の説明をふまえ、舌痛症をあえて定義するのなら…

舌に症状があって担当医がわからなかったら舌痛症

…ということになります。
当然、”担当医がわからない”…つまり原因不明という判断をするまでには個人差があります。つまり、卒業したての研修医だろうと学会を主催する有名な開業医であろうと、知識や経験に関わらず、よくわからなかったら舌痛症との診断が成りたってしまうのです。

 

舌痛症という意味


さて、舌の痛みはキッカケや時期が明確なことが多く、実際に患者さん自身もおぼろげながら何らかの原因があるように感じている方もおみえです。

 被せ物をしてから…
 歯を削ってから…
 入れ歯をしなくなってから…

…などなどキッカケも様々ですが、少なくとも担当医は何らかの舌の痛みとの関連性を疑い掘り下げるべきでしょう。

ここで見方を変えてみましょう。

当然のことながら舌に症状がでても、舌痛症とは限りません。
舌咽神経痛に三叉神経痛、口腔カンジダ症や帯状疱疹などなど…鑑別が必要な病態は他にもありますが、どれも診断は容易ですし治療法も確立しています…。

となると問題となるのはそれ以外。
何らかの舌の痛み舌痛症
のいずれかになります。
つまり、歯医者さんで何らかの舌の痛みを掘り下げられることなく原因不明とされてしまったら最後、他との鑑別はすぐに終わり、舌痛症の診断が待っているかも知れないわけです。

刑事事件に例えるならば、事情聴取が終わったら現場検証もそこそこに捜査が打ち切られ、すぐに裁判になってしまうような…
…そんなイメージでしょうか?


 

舌痛症でないなら何なのか?


舌痛症と診断する前に歯科領域での局所的要因を掘り下げる重要性をここまで説明してきました。
ようは歯医者さんで治せる領域の状態なのかをキチンと考えるということです。

明確にキッカケや時期があって発症しているのであれば、それはターニングポイントがあるということ。ならばそれより前の状態に戻すことができれば、症状は消失するはず…という考えに至ります。

ターニングポイントを探すためには、丁寧で細かい問診と舌の観察が必要になります。
具体的なターニングポイントの例としては…

① 歯を削った
② 被せ物をした
③ 歯を抜いた
④ インプラントの治療をした
⑤ 歯の根の治療をした

…などなど。一見、舌とはまったく関係なさそうですが、舌の所見と問診を照らし合わせることでプロセスが浮かび上がってくることも少なくありません。

たとえば、歯には噛んだ瞬間に舌を刺激しないようにするための被蓋と呼ばれる機構がありますが、歯を削ったことでこの状態が崩れ、舌に刺激が加わる…なんて事も実際にありえます。

舌の症状でお悩みの方は、ターニングポイント考えてみるのも良いかもしれませんね。

 

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■ 書いた人:ケーコ歯科 歯科医師 塚本

口腔外科で病院勤務後、ベテラン歯科医師の元で研鑽を積み、歯科医院の分院長を経験。現在は名東区で歯科医院を開業しています。
診断力と器用さを武器に、オールラウンド型歯医者を目指して奮闘中。